雨だった。
ゴールデンウィークの終盤だったか明けた後だったか、雨が降っていた。
雨は嫌いじゃない。
街の景色はいつもと変わって見えるし、ろくに洗車してない愛車がきれいに見えたりする。
ただ、車の窓ガラスは見にくいし傘を差すのはめんどくさい。服が濡れるのも好きじゃない。
あと、ウエットの中走ったカートの掃除は最悪だ。
走るのは嫌いじゃないんだが、雨特有の汚れは何とかならないものかといつも走行後思う。
あれ、本当に雨は嫌いじゃないのか?よくわからなくなってきた…。
そんな雨の日のことだった。
いつものように脱衣所で服を脱ぎ、風呂場の戸を開けた。
真正面には曇りガラス。風呂場の窓なのだから当然だ。
ふと視線をやると、そのガラスの左下の方に白い影が見えた。
細長い楕円形で、曇りガラスのせいで輪郭ははっきりとしないが、
それがいったいなんなのか僕は即座に理解した。
そして放っておけばそのうち影が消えることもわかっていた。
髪や体を洗ったのち湯船にゆっくり浸かりながらふと横を見たが、まだそこに影はいた。
翌日。よく晴れた一日だった。
いつものように脱衣所で服を脱ぎ、風呂場の戸を開けた。
真正面には曇りガラス。そしてガラスの左下には白い影。
何だまだいたのか。かわいそうなやつだ、きっと動けなくなったに違いない。
ただ、よく見ると昨日より影が若干小さくなっていることに気が付いた。
さらに若干透明に近づいていることも。
へぇ、これは面白いな。僕はなおさら放っておくことにした。
それから数日、雨の日も晴れの日も白い影はそこにあり続けたが、
ある時点を境に変化もなくなってしまったので興味が薄れてしまった。
ある日、庭の掃除を手伝っているときにふと白い影のことを思い出した。
いい加減毎日裸で影と対峙するのも嫌になってきた。
だいたい雨の風物詩とはいえ、そこにあってそんなに気分のいいものではない。
適当にこそぎ落とせばなくなるはずだ。
手ごろな道具を手に取り、いざ風呂場の窓の前へ。
そこには意外な光景が広がっていた。
影は小さくなったと思っていたのだが、それは間違いだったのだ。
むしろ重力によりサッシへと広がっていた。
そこで僕は生まれて初めて、
死んだナメクジを放っておくと溶けて広がることを知った。
コメント